PCのデスクトップを掃除していたら、いまうちの大学院の授業「文章表現論」のプロトタイプを作っていたときに9月終わりころ試験投稿したコラムを発見。
お題は「穴」ということで、こんなの書きました。
もし良かったら感想など寄せてもらえると大変嬉しいです。
平和な街
昔々あるところに旅人さんがいて、その人は東を目指して歩いていました。なぜ東を目指していたのか、その旅人さん自身も忘れてしまうほど長い間旅を続けていました。大きな荷物をしょって、裾の長いコートを着て、草原の中の踏み固められた道を歩いていました。
しばらく歩いていると道の両脇の草原にポツポツと穴があるにが見えました。深さが1mぐらいで直径が1mくらいの穴でした。進むにつれてその穴の数はどんどん増えていきます。旅人さんは不思議に思いながらも、街を目指して歩いていきました。日が西にだいぶ傾いたころ、街が見えてきました。相変わらず穴はたくさん道の両脇にありました。
街の門をくぐり、中に入るころには夕方になっていて、旅人さんはとりあえず安い宿を探して街を歩きました。ちょうどお祭りの最中で沢山の人で通りはにぎわっていました。街は教会のような塔を中心としてほぼ円の形をしていて、周りを城壁に囲まれていました。旅人は珍しいらしく、あちこちで声をかけられ、歓迎されました。
「旅人さん、ようこそ我が街へ! ちょうど今日と明日は年に一度のお祭りなんです。ぜひ楽しんでいってください」
宿を見つけたあと夕食を食べに旅人さんは街中へいきました。通りのあちこちに屋台がならび、食べ物とお酒を振る舞っていました。それらを堪能しながら旅人さんは街のいろいろな人に声をかけられました。
「今日は特別な日だからね。たくさん食べて飲んでくれよ!」
「これはどういったお祭りなのですか?」
「この祭りはね、平和を祝うお祭りなのさ。今日はその前夜祭というわけ」
「そうそう、今年は特に平和だったからね、明日は大変なのさ」
「明日は何があるんですか?」
「それなら、明日のお祭りも見ていってくれよ! すばらしい儀式が見られるからよ」
そうしてお祭りの夜は更けていきました。
翌朝、旅人さんが目をさまして、宿の窓から外を見ると街中の人達が、街のそとへ向かって歩いていました。宿屋を引き払って、旅人さんも同じように外を目指して歩いていきました。城壁の外で街の長老が即席で作られた台の上に乗って話しをしていました。
「この一年は実に平和で豊かな年でした。この平和に感謝して今年は200個の穴を埋めることとします。さあ、始めましょう」
集まった人から拍手が起こり、そして人々はシャベルを持って草原に散らばり、穴を埋め始めました。
「この儀式にはどういう意味があるのですか?」と旅人さんは近くの人に聞きました。
「この地方は昔から戦争が絶えなくてな、毎年多くの人が死んでいたのさ。死んでしまった人を埋葬するための穴がたくさん必要になって、穴を掘るのが追いつかなくなりそうだったので、あらかじめたくさん穴を掘っておくことにしたのさ。そして、必要なかった分を埋めて平和に感謝するというのがこのお祭りなのさ」
「なるほど。埋める数が多いほど平和だったということなのですね」
「その通りさ。去年はほとんど争いごとは起こらなかったからな、今年は多めだね」
「そうよね、平和がいちばんだものね」
そうして、沢山の穴を埋めたあと、人々はまた穴を掘り始めました。
「どうしてまた穴を掘っているのですか?」
「これは今年に殺す相手の兵士の数の分だけ穴を用意しておくのさ。敵とはいえ、一応埋葬ぐらいはしてやらないとね」
「今年こそ、敵のやろうをコテンパンにしてやるのさ」
穴を再び掘って、草原を穴ぼこだらけにした後、街に人々は戻っていき、旅人さんはまた東を目指して歩いていきました。